JO2ASQ公式サイト > 自作 > サテライト移動運用アンテナ
月刊FBニュース 2021年10月号に、より詳しい説明があります。
低軌道衛星を使った衛星通信(サテライト)は、モービルホイップやグラウンドプレーンアンテナでも交信を楽しむことができます。とは言っても、移動運用で短時間に多くの交信を行うためには、方位・仰角の両方が制御可能なビームアンテナが欲しくなります。
しかし、1パス10数分の交信機会のために、アンテナの設置に数10分もかかってしまうのはナンセンスです。アンテナの設置に手間取っているうちに、衛星が過ぎ去ってしまっては意味がありません。市販のビームアンテナは組み立て・解体に手間がかかります。また、重量も重く、操作性に難点があります。
そこで、カメラ用の三脚に取り付け、手動で方向を制御する小型・軽量の八木アンテナを自作しました。三脚を折り畳んだ状態で車内に収納しておけば、わずか2分ほどで設置が可能です。また、特に低い仰角のパス(信号が弱い)や、地上波での遠距離交信を可能にするため、必要に応じてエレメントを増設できるようにしました。2006年10月に衛星通信を始めて以来、このようなアンテナで延べ130,000局以上のQSOを行いました(2021年2月末現在)。
基本形は144MHz 4エレ/430MHz 7エレの八木アンテナです。衛星通信は、異なる周波数帯で送信と受信を同時に行いますので、送信側の電波が受信側に干渉しないように処置する必要があります。また、430MHzで送信する場合に144MHzのエレメントが干渉し、SWRや指向特性が悪化することもあります。
それらの問題点を解消するための最も簡単な方法として、エレメントを直交させる構造にしました。衛星通信に使われる円偏波などとの整合性は特に考えていません。
三脚の雲台部分で傾斜を変えることにより、次の2パターンを切り替えることができます。
前者はエレメントが車のボディに当たりにくい(可動範囲が広い)ので、特に必要が無い場合は144MHz 水平偏波/430MHz 垂直偏波としています。
エレメントは全て外径φ6mm(内径φ5mm)のアルミパイプです。ブームへの取り付けは「ナイロンクランプ」(ビス止めタイプナイロンクランプ ELPA PH-873NH)を使っています。これは壁に同軸ケーブルを固定する部品です。アルミパイプの外径よりもわずかに細いナイロンクランプで、アルミパイプを挟み込みます。
注意:外形φ6mm、内径φ4mmのアルミパイプも市販されています。これは重いので、ナイロンクランプでエレメントを固定するには不向きです。
この方式の利点は、組み立て・解体が簡単なほか、アンテナが倒壊した時に、エレメントが外れて衝撃を吸収するためにアンテナおよび車体の損傷が最小限で済むことです。これはメーカー製のアンテナには無い特徴です。
なお、低温環境ではナイロンサドルの柔軟性が失われて割れることがあるので、予備を用意します。
ナイロンサドルは幅15mm、長さ50mm、厚さ2mmのガラスエポキシ・ユニバーサル基板(写真では旧仕様のアクリル板、衝撃で割れやすいため変更した)にネジ止めして、アクリル板の中央をブームに固定します。ブームは1辺9mmの「コの字型筋入チャンネル」と呼ばれるアルミ材です。断面が四角形のパイプよりも軽くできます。
給電部分は、SMA-L型コネクタを加工してSMA-Jコネクタを取り付け、直接給電としています。SMAコネクタは5Dの同軸に対応していないので、5DのケーブルをいったんBNC-Pで受けて、そこからSMAに変換しています。144MHzの給電部は同軸ケーブルが大きく曲がるため、給電部付近だけ3D-2Vの同軸ケーブルにしています。
SMA-Jのストレートタイプは、センターピンが抜けやすいので、SMA-JのL型を使用しています。SMA-Jの芯線の受け側は、経年劣化で弾性が失われて接触不良になりやすく、予備のコネクタを常時持参しています。
直接給電でインピーダンスが50Ωに近くなるようにエレメントの配置を設計しているため、放射器のエレメント長の微調整だけでSWRは1.2程度になります。
同軸ケーブルは144MHzが5D-2V、430MHzが5D-FBで、長さはともに4mです。
収納時は144MHzのエレメントを取り外し、本体に「マジックテープ式コードバンド」で締め付けています。同軸ケーブルは接続したまま、車内に置いています。設営は三脚を広げ、144MHzのエレメント4本を取り付けるだけです。
ブームと三脚の間は木製の角材で接続しています。角材は雨などで濡れると強度が低下してくるので、水性ペイントを塗って防水しています。
共振周波数は、周囲に障害物が無い状態で、使用周波数の上限である146MHz付近、437MHz付近に調整しています。これは車のボディーに接近した場合に共振周波数が下がることを考慮したためです。
エレメントの先端には、ビニル製のエンドキャップを付けています。このアンテナを開発した2006年当時は入手困難で、熱収縮チューブで代用していました。現在では、ネット通販で各サイズが容易に入手可能です。
低仰角のパス、混信の多いFM衛星、地上波による遠距離との交信で使うには、4/7エレでは力不足を感じます。そこで必要に応じてエレメントを増設して、144MHz 6エレ/430MHz 12エレで使っています。ブームの先端にやや大きめのコの字チャンネルをネジ止めして差し込み口を作り、ブームの増設側にはアルミの棒を接続して差し込めるようにしています。
144MHzのエレメント長は84cm(2本とも同じ)、間隔は44cm。430MHzのエレメント長さは28cm、間隔はそれぞれ18cmです。増設部分のエレメント長・エレメント間隔は簡略化のため全て同じにしました。
弱い信号でも確実に受信できるため、衛星が可視範囲から外れる限界まで交信が可能です。エレメントを増設すると、435MHzアップリンク/145MHzダウンリンクの衛星では、Max El=1度台のパスでも交信が可能です。
このアンテナによるサテライトの最多交信記録は、1パスでは63QSO(RS-44、2021年3月14日、熊本県球磨郡湯前町)、1日では671QSO(RS-44、2020年12月13日、大分県宇佐市)です。
作成 2008年4月23日、更新2023年1月20日